共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること
”共感の時代へ”というタイトルはまさに著者から僕たちに対するメッセージだろう。 共感しないのは時代遅れ、否、プレモダンだということだ。これからは’本能的に持っている’共感の時代が効率的だとういことを動物行動学から示唆している。 本当に動物行動学が人間に役立つようなものを投げかけてくれるのだろうかと訝る読者も多いだろう。動物は動物であり、人間は人間であるというデスマグネットを持っている人は少なくない。しかし、それは大いなる勘違いだ。人間は動物であり、本能に忠実なのである。自己修練によって本能を’隠す’ことはできるかもしれないが、’無くす’ことは不可能だ。 僕が最も読んでもらいたい章は、第3章「体に語る体」である。 この章を読むだけでも充分、共感の時代がくることを感じさせてくれる。誰かが怒ればみんな怒るし、誰かが微笑めばみんなが微笑むという単純な理論を実証実験から明らかにしてくれている。 目次 はじめに 1.右も左も生物学 強欲を正当化する「進化」/直感的な道徳判断/親抜き「ベビー・ファーム」/人類の自然な状態/「社会契約」の神話/攻撃性と戦争 2.もう一つのダーウィン主義 自然主義的誤謬/喧嘩を仲裁するチンパンジー/エンロンと「利己的な遺伝子」/ブタの子を育てるベンガルトラ 3.体に語る体 あくびの伝染/対応問題/サル真似の技術/身体化した認知/共感する脳/痛みに同情するマウス/人間を看取る猫のオスカー/ミラーニューロンの発見 4.他者の身になる 同情と共感の違い/慰めの抱擁/「推測する者」対「知る者」 /動物たちの利他行動/赤頭巾ちゃんとオオカミ/「向社会的」なトークン/快い温情効果 5.部屋の中のゾウ 個体発生と系統発生/ イルカの援助行動/鏡を覗き込むゾウ/自分の小さな殻の中で/背中を貸すマントヒヒ/指摘する霊長類 6.公平にやろう ウサギを狩るか、シカを狩るか/オマキザルの信頼ゲーム/動物たちの行動経済学/動物不在の進化論/公平性の行動規範/最後通牒ゲーム/通貨の価値を知るサル/公平性の二つの面 7.歪んだ材木 入れ子細工のロシア人形/スーツを着たヘビ/共感のスイッチ/見えざる救いの手 謝辞 解説 西田利貞 注 参考文献
小飼氏がアゴラでこう語っている。 よく「動物は無益な殺傷はしない」と言われるが、これは神話に過ぎない。シャチに至っては仔アザラシでサッカーに興じさえする。むしろ動物の世界でも人間の世界でも、「競争によって強くなる」のではなく、「協調によって強くなった結果、競争するだけの余裕が生まれる」というのが真実なのではないか。「人類の歴史は戦争の歴史」というチャーチルの主張に対し、著者も「戦争がはじまったのは農業の誕生以降」と批判している。日本の古代史もそれを裏付けている。縄文人には戦争をやってるだけの余裕なんてなかったのだ。 市場原理主義を批判する人が政治を行ったり競争する元気を失っている国民有している日本はもう一度、協調から始めた方がいいかもしれない。