よく雑誌の特集なんかで理想の上司についてランキングされていたりする。

部下にとっての理想の上司は「いざという時に頼りになる」というのがもっとも多い意見だろう。僕自身もこれには同意である。

部下を持てば、慕われるような上司になろうとか頼りになる上司になろうとか考える人も多いだろう。

ただ、部下にとって上司とは先ほど行った通り「いざ」という時に絶対安心感を誇る存在であって欲しく、常に威力を発揮されては困るのである。つまり理想の上司はサッカーで言うと攻守ともに素晴らしい長友ではなく、最後の砦となって後ろから見守ってくれるドイツワールドカップ時のオリバー・カーンなのだ。

例えばアプリ開発の現場で考えてみよう。ここでいう部下とはプログラマのことであり上司とはプロジェクトマネージャのことである。完璧な上司は、ユーザとの仕様の確認・工数の交渉・社内スケジュールなどこなしつつプログラムの品質についても提言できる。多くのシステム屋ではプログラマ上がりのプロマネが多いため、下手したら環境の整備やコーディングまで行う人もいるだろう。まさに絵に書いたような完璧な上司である。

上司が上手く仕事の流れを作ってくれた場合、その下のコーディングリーダー的な存在の人は非常に助かり、ガシガシプログラミングに専念できる。そうするとその下のプログラマも仕事が楽になっていき、最終的に一番下っ端のプログラマは簡単な部分を担当させられたり管理資料となるExcelをせこせこと作ることぐらいしか仕事がなくなってしまう。

プロジェクト的に見るとまさに素晴らしい状態なのだが、これは部下としては念のため資料を作らされて陽の目を見なかったり、すっかりコーディングを直されてしまったりと、やりがいや責任感が発生しづらくなってしまう。

部下にとっての理想の上司と、完璧な上司像はことなるのである。

僕としては、上司はユーザとの交渉さえしっかりとメンバーの意向を組んでやってくれさえすれば、ほとんど仕事をしなくてもいいと思う。そこでプロジェクトが少し大変になり、難しい部分のプログラムや仕様を考えたり、マネジメント的なスケジュール管理などを少し任されたりすることによって自分自身の能力も磨くことが出来るからだ。

自分が楽をする為に部下を使うくらいの気概が上司にはあっていいと思う。

日本では、どの層でも真面目で自分の職務を全うするために、一つ上の地位の仕事を経験することが少ない。先程の話の例で言うとプログラマからプロマネになったとき、今までほとんどプロジェクト管理したことがないという人もいるということだ。

つまり、地位が上がることに未経験の仕事をすることになり、会社全体で見るとどの地位の人も常に無能な人でできあがってしまうという構造があるのだ。

責任感のある上司に恵まれ、入社した日から窓際社員のような仕事しか与えられないより多少大変でも自分の仕事をどんどん投げてくれる上司のほうがスキルアップの面では、「良い上司」であるということを理解しておく必要があるだろう。


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