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2011年05月

ミラーニューロン 書評

  
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ニューロン(神経細胞)は聞いたことがあってもミラーニューロンは科学好きでもない限りあまり馴染みがないだろう。ではミラーニューロンとは何なのだろうか。

他者と自己の区別をしない神経細胞:ミラーニューロン
「ミラーニューロン」は、他者の行動やその意図を理解する手助けになると考えられている神経細胞だ。たとえば自分自身がワインの瓶を手に取る時と、他人が同じ行動を取るのを見ている時、どちらの場合にも、ミラーニューロンは活動電位を発生させる。
われわれは通常、なぜ友人がワインのボトルを手に取っているのか、1つ1つ順を追って理由を推測したりせず、相手の頭の中で何が起こっているのかを瞬時に理解する。なぜなら、同じことが自分の頭の中でも起こっているからだ。これを可能にするのがミラーニューロンだ。

ミラーニューロン
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本書はこのミラーニューロンを検出するための実験やミラーニューロンが発火するメカニズムについて書かれた本である。

このメカニズムを応用してスポーツに利用したら面白いんじゃなだろうか。ミラーニューロンを利用してプロ選手のフォームや動きを脳で理解することによって、肉体を使わずともある程度トレーニングできる。肉体は脳で理解したことを実際の行動に移すための柔軟性や筋力のトレーニングに費やしてオーバートレーニングを防ぐ。すでにイメージトレーニングのようなものは導入されているが、これをもう少しミラーニューロンに特化する形にするということだ。

池田信夫氏によるとミラーニューロンはすでに経済学に応用されているので、これから様々な分野で注目されることは間違いないだろう。

日本の盛衰―近代百年から知価社会を展望する  書評

  
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日本の盛衰―近代百年から知価社会を展望する (PHP新書)

日本の盛衰―近代百年から知価社会を展望する (PHP新書)
堺屋 太一
PHP研究所
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9年くらい前の本で、読んだのはこれで2回目。初めはちょうど一年前くらいに読んだように記憶している。古い本だけど、日本の近代化の流れからこれからの行く末まで丁寧かつ的確に書かれているので、遅ればせながら書評することにした。

まず本の内容とは直接関係ないが、まえがきを読んで思わず落胆してしまう。9年前に書かれた本であるにもかかわらず、今(当時)の日本を嘆く内容が今(現在)に書かれていると錯覚を起こすくらい変わっていないことだ。経済の成長力が衰えたこと、財政が大赤字ということ、学力低下、日本企業のグローバル化への出遅れ感、そのすべてが当時と今で何も変わっていないし何も解決されていない。失われた20年とはこれほどのものかと改めて強く感じてしまった。

本書の前半部分は日本が近代でどのような発展を遂げてきたのかの解説。終身雇用制は日本の伝統と勘違いしてる人が多いが、それは日本が高度経済成長を遂げているときに大企業のみで制度化されたものであって、昔から、むしろ自分の技術力を活かして働く場所を変えるのが普通だったというような、普通の人なら知っている内容を丁寧に解説してくれている。

後半部分は著者の持論も交えて、これからはますます”知価社会”になっていくといった未来予測に終始している。知価とは、人のアイディアや独創性がお金に転嫁されていくことである。本書でも取り扱っている事例だが、例えばアルマーニのネクタイは安くても2万円くらいするが、実際に製造にかかるコストは1000円以下である。それでもみんなこぞってアルマーニのネクタイを購入するのは、アルマーニというブランドを身につけることで得られる高揚感や、人に自慢できるシグナリングの効果、またデザインの良さなどが挙げられる。これはすべて実際の価値ではなく、デザイナーやマーケターが仕掛けた”知価”によって価格が高沸しているのだ。

日本は商品やサービスに”知価”を加えるのが一歩遅れたと著者は指摘している。それは、大量生産大量消費によって経済的発展を遂げた実績があったからである。時代が変化しているにもかかわらず相変わらず日本は新しいものを生み出すのではなく、”合理化”によって製品の質や生産効率を上げることを重視してしまう傾向がある。いわゆるイノベーションを起こすことが不得意なのである。

9年前時点でAppleもGoogleも今のような知名度はなかったし、Web上にTwitterやFacebookといった便利なサービスも出てなかった。9年たった今どうだろうか。まさに著者の言っているとおりイノベーションによって新しい製品やサービスを生み出しているAppleやGoogle、Amazonといった企業が世界を牽引している。

日本も効率化や高性能化にこだわる前に、知価を生み出すことに人力を尽くさないと失われた20年が30年40年と続いていってしまうかもしれない。

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