2010年は電子書籍元年と言われている。Kindleやipadの台頭によって、電子書籍に対して注目が集まっているからだ。私自身は以前からiphoneで電子書籍の本を読んでいた。その時感じた、「本を持ち歩かなくても手のひらで本が読める」という快感は忘れられない。私を含め読書好きにとって紙の本は愛着のようなものがあるが、増えることに負担が掛かる“不動産コスト”を考えると維持費がかなりかかる。そんな中、電子書籍はかつてのCDで聞いていた音楽がデジタル化によって不要になったように物の所有を減らしてくれる。CDをitunesに入れるように、本好きの間ではスキャナと裁断機によってPDF化してPCに保存する「自炊」がブームになっている。これは所有するする書籍の量に比例するように効用がある。 電子書籍化が遅れている日本で紙の本は活字情報を伝える“紙プロトコル”に成り下がってきている。これは非常に効率の悪い情報伝達である。それに加えて、このまま日本の出版社業界が電子書籍化を拒むような態度をとっていると、著作権を振り回した結果P2Pで違法ダウンロードが主流になってしまった音楽のように産業自体の存続が危ぶまれる。そもそも本の著作権は出版社に無いので書き手が電子書籍を求めた場合存続できる可能性は無いだろう。音楽を例にとると、有料でもitunesはダウンロードのしやすさやブランド力等から利益を出している。消費者が求めているのは無料ではなく、有料でも使い勝手の良い環境ということの証明でもあろう。 今の時代は多様化の時代である。電子書籍の今後を考えるうえで、多様化というキーワードは欠かせない。私の予想だと紙の本が完全になくなることは無いと思っている。紙という媒体が好きな人もいるし、好きな本は紙で持っていたいという層が必ずいるからだ。それに加えて、今まで本を読んでいなかった人が電子化によって本を読むという現象も起こりにくいと考えられる。これは音楽を聴かない人がipodが普及することによって音楽を聞くようになるかという話と同じことである。そもそも、活字というジャンルで考えるとblogやtwitter、携帯小説等の普及で読む機会は格段に増えている。それに加えて活字情報の多様化の流れは止まらない。本という媒体では印刷コストや流通コストがネックになり、ある程度まとまった形の情報でしか販売できなかった。これが原因で、字数を埋めるために無駄な情報をだらだら欠かれている本は少なくない。電子書籍はこういったコストをかぎりなくゼロにまで下げてくれる。それによって活字のパッケージ化がすすみ、一冊ではなく一章単位で販売することも可能である。今後さらに注目されると思われるのが“メルマガ”である。メルマガはそれに適した販売スタイルである。一旦登録してしまえば心理的に脱退する人が少ないので月額課金することによって、うまくいけばかなりの収益が見込める。本のように売れ残りに対する損失も無いのでリスクも少ない。 別のビジネスモデルとしては、購入した電子書籍をWeb上で閲覧・管理できる仕組みだ。アゴラブックスがこのビジネスモデルの代表である。Web上で管理できるので、ネットがつながるものであれば読む端末を選ばない。端末の多様化にも対応したスタイルというわけだ。このように電子書籍の今後の動向としては、ipadやkindleで読書をするというスタイルだけでなく活字情報に触れる入り口が広がっていくと予想される。 電子書籍化は活字産業の発展というよりは産業構造のシフトという要素が主である。プログラミング言語のような本はレファレンス本に近く、紙媒体のほうが使い勝手が良い。 むしろ、土地代の高い都心で書籍による多くの不動産コストがかかっている“ネットカフェ”はipad一台で不動産コスト改善・PC設備の不要・書籍の管理が一気に解消されるのでビジネスも出るとして今後注目している。